次郎丸旅物語

次郎丸旅コラム【カリスマ道場物語】後編

Advertisements

カリスマ道場物語【後編】

六、

 全てを流してくれそうな波の音。どこか自由な場所に連れてってくれそうな鳥の羽ばたく音。遠くから聞こえるどこかの誰かが薪を割る音。

 あの夜、目を閉じて瞼の裏の自分と相談しながら一人でキャンプに行くことにした。

 二月ながらに、沖縄の太陽はテントを貫通するくらいの強い日差しをこちらに向けている。暑い。トイレも炊事場も遠く不便。だが、心地よい。

 昨日の自分が求めていたのはこれに違いない。昼間から時間にも誰にも囚われず、ただのんびりする。時間を浪費する。でもそれは決して無駄にはならない。

その時間が自分に心の余裕を持たせ、生きやすい自分に戻る。

 時間を忘れていつの間にか三泊もキャンプしていたので、このキャンプ場にはもう慣れていた。

 今日の夜は、炭火でじっくりご飯を炊いて、美味しそうなお肉を焼いて食べよう。

 そんなことを思いながら夕陽を眺めて火おこしの準備をしていると、スマホの通知オンがなった。

 「カリスマ道場なくなっちゃうかも。」

 どうして?と疑問に思いつつ、嬉しくも悲しくもない表情のしたクマのスタンプを送り返す。

「明日帰るかぁ。」

 キャンプで一人の時間を過ごしリフレッシュすることができたので、心に余裕ができたのか帰ってもいいかもという気持ちになっていた。

 まあでも明日のことは明日考えて、とりあえず今はこの時間を大切に満喫することにしよう。

 そう思いながら、こぶりな備長炭に火をつけた。

七、

家に帰ると、そこはもぬけの殻という言葉がとても似合うほど見違えるように綺麗になっていた。

 話を聞くとメッセージが届いた昨日、急に大家さんが帰ってきたらしく、その時、合計六人の旅人が居座っており、部屋もぐちゃぐちゃの状態、そして何より、大家さんの怒りの沸点を上げたのが、この現状が伝わっていなかったということ。

 大家さんからすれば、星さん一人だけいて他の旅人はいないと思っていたらしく、それは当然の結果だ。とりあえず、その後、すぐ出ることもできないので、大掃除を始めたらしい。

 僕が寝ていた場所も綺麗にしてくれている。ありがとう。

 大家さんの弟は警察官らしく、警察沙汰にしてもいいぞ、との脅し文句も言われたほどだそう。

 星さんの提案により、みんなで話し合いをすることになった。

 「このまま出ると、旅人のイメージが悪いままになったしまう。だからあと、一週間ぐらい時間をもらって庭掃除をしたり、やれることをしてから、出よう。」

 星さんからの提案に僕は納得した。

 「でも、一応相手からは警察のことも話に出てる。今出てしまえば、何事もなく終われる。だから、これらは全て自己責任。自分で残るか出るか選んでいいよ。どっちを選んでもいい選択だと思う。」

 自己責任。確かにそうだ。このまま捕まる可能性もゼロではない。大家さんが知らずに出入りしていたのなら不法侵入にもなりかねない。

 でも僕は残る選択をした。初めてここにいる旅人たちと一緒にいる選択を自らした。

ちなみにその時、自分を入れて七人の旅人になっていた。なんか七人の侍みたい。

八、

次の日から掃除が始まった。庭の生い茂った雑草たちを綺麗に抜き取り、太い木々をノコギリで切り倒し、家の中も箒ではき雑巾をかけ、お風呂にトイレ、みんなで分担して罪滅しをしていた。

 それと同時に、僕は他の旅人たちと楽にコミュニケーションが取れていることに気づいた。

 なぜだろう。あんなにも一緒の空間にいることが苦手で家出までしたような人たちなのに、日に日に喋れるようになっている。

 掃除を始めて三日、四日が過ぎ家の綺麗さと共に居心地も良くなってきた。心にゆとりができたからなのか、みんなと冗談を言い合ったり、夜一緒に路上に行ったりするのが苦じゃなくなっていた。

 そんな中、僕が家出している間に増えていた旅人の一人が、

「最後にみんなでキャンプでもしない?」

「いいね。」

「賛成~。」

 満場一致で最終日にみんなでキャンプをすることが決まった。

九、

ぱちぱちと燃えている焚き火が周りを囲っている旅人たちを照らす。少し肌寒いが光の強いその炎に僕はあまり近づけない。寒さより優先したいものがあった。

 それぞれがお酒を片手にお肉を食べたり、今後どうするのかを会話をしたりしている。

 これからここにいる旅人はそれぞれの移動手段を使って世界中にばらばらに散らばる。ある人は飛行機を使って福岡に。また別の人は台湾に。沖縄の別の地域に滞在する人もいる。僕は明日の朝いちの船で鹿児島に向かう。

 この二週間、非日常の深い経験を沢山した。とてもじゃないほど気が合わない人たちとの共同生活。家にいるのが辛くなってキャンプに逃げ出した日。家に大家さんがきて追い出されたこと。他にも美容室でご飯を食べたり、足ツボマッサージを受けたり。

どれも今まで経験したことのないことだったが、今日の出来事もまた、人生で初めて経験したことになるはずだ。

 だって、こんなに苦手な人たちとの別れなのに、

 

        どうして涙がこんなに止まらないんだろう。

ABOUT ME
小椋 仁
コラムニストとして新聞掲載を目指している物書き・ライター。 現在はスーパーカブで日本一周しながら、あらゆるところで感じたことをコラムとしてインスタに投稿中。 ここでは心理カウンセラーの資格を活かし、心理学の追求、またそのほかの雑学や旅物語を綴っています。
オススメの関連記事